岩手山の肩

雪をかぶつた岩手山の肩がみえる。
少し斜めに分厚くかしいで
これはまるで南部人種の胴體トルソオだ。
君らの魂君らの肉體君らの性根が、
男でもあり女でもあり、
雪をかぶつてあそこに居る。
あれこそ君らの實體だ。
あの天空をまともにうけた肩のうねりに
まつたくきれいな朝日があたる。
下界はまだ暗くてみじめでうす汚いが、
おれははつきりこの眼でみる。
岩手縣といふものの大きな圖態が
のろいやうだが變に確かに
下の方から立ち直つて來てゐるのを。
岩手山があるかぎり、
南部人種は腐れない。
新年はチャンスだ。
あの山のやうに君らはも一度天地に立て。

高村光太郎


「岩手山の肩」について

「岩手山の肩」という題のこの詩は、昭和22年12月28日作、翌昭和23年1月1日発行の『新岩手日報』(現在の岩手日報)に掲載されました。
平成24年現在、比較的手に入りやすい書籍としましては、筑摩書房の「高村光太郎全集 第三巻」 に収録されています。

旧字体→新字体:
 胴體(胴体)
 肉體(肉体)
 實體(実体)
 岩手縣(岩手県)
 圖態(図態)
 變に(変に)
 來てゐる(来ている)

本サイトについて

本サイトは、この「岩手山の肩」という詩をより多くの方に知って頂きたいと思い作成しました。

インターネット上にこの詩を掲載したサイトがなく(ブログはあります)、 高村光太郎の没後50年が経過し著作権保護期間も終了している為、こちらに全文掲載させて頂きました。

漢字の読みについて。高村光太郎は漢字の読みについてはとくに指示(この詩だと”トルソオ”の部分)がない限りは、読み手に任せるというスタイルだったそうです。本サイトでも、なるべくその意思に沿うように、読み仮名はつけずに旧字体を新字体に直したものを記すようにしました。 また高村光太郎は当て字を使う事も多かったようです。読み仮名について高村記念会事務局にご相談したところそのように回答頂きました。

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更新履歴: 
平成30年10月08日 Yahoo ジオシティーズ終了予定に伴いサイト移設
平成24年10月30日 句読点、旧字体修正
平成24年10月30日 漢字の読みについて追加
平成24年10月29日 掲載開始